2021/12/10 文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの 下巻   ジャレド・ダイアモンド 草思社文庫

2021年12月11日土曜日

ジャレド・ダイアモンド 社会学 草思社文庫

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文明崩壊 下巻

マルクス・ガブリエルの『自明の事実』ということが気になって、『昨日までの世界』を読み返してみた。すこし腑に落ちたような気がしたので、今日からは『文明崩壊』を読む。上巻はいろいろな文明社会が崩壊していった例が紹介されている。下巻の方にいろいろ考察があるので読んでいこうと思う。

 この本が書かれたのが2005年であるが、今ほど気候問題が騒がれていないころだったと思う。上巻で例として紹介されているいろいろな文化は、人間が環境に加えた変更が社会を滅ぼしてしまうという例が多かった。いまや地域的な問題だけでは済まなくなっている世界で、今読んでも良い本だと思う。下巻は成功例を取り上げている。

環境に変化を加えることで生活条件が損なわれるということがわかった時に、どのように対応をとるかはコミュニティの大きさで変わってくるらしく、首長制が成り立たない小さな社会か君主制が成り立つ大きな社会ではうまくいくが、中央集権的なプレ国家が成り立たない中くらいの社会ではうまくいかないという。

小さな社会では土地全体のことを住民個々がわかるので危機感を自分事として認識することができるので、住民が進んで対応をとる。

大きな領域を持つ社会では、住民は全体の事がわからないが、首長や君主が全体を把握しており危機に対して適切な措置が取れれば回避できる。

中くらいの領域の社会では君主を上にもてるほど余剰生産がなく、いくつかの部族が覇権をとれないまま争い続けることで対策が遅れるのではないかとしている。このあたりは『昨日までの世界』で見てきた、伝統社会では戦争を止めることが難しいという話と呼応するようだ。

大きな社会の中央集権的な成功事例として江戸時代の日本のことが取り上げられている。秀吉の天下統一から江戸時代の明暦の大火のあたりまでに森林乱伐がすすみ、木材の奪い合いがおきるほど社会不安が広がったという。戦乱の時代が終わったことで人口増加も起こり、建材、燃料、飼料にあてる木材の需要が高まった。確かに城の建造ラッシュだったし、寺社仏閣の建造も増えた。江戸のまちづくりも同時期にあったし、それが大火で焼けてしまいさらに木材が必要になった。現代も80%ちかい森林被覆率は先進国としては驚異的であるという。

江戸幕府の対策が効果的だったので現在の緑の列島が維持された。肥料の原材料として森林から得ていたものを魚粉を利用することで解決した。綿の肥料にニシンを使ったというのはこういうことが始まりだったのか。ただ、ニシンをアイヌから手に入れることで、アイヌ社会は自給自足から日本人との貿易に頼る生活になっていき、力を弱められることになったという。さらにこの時期人口の増加が一時的にとまったという、これは個々の人々が情勢をみて子供を増やさないよう対応したのだろうという。その他倹約令をだして消費を抑えたり、植林を推奨したりして対応している。その他にも細かいものから大きな視野のものまでたくさんの政策を行い、森林の再生と維持に成功した。

このあたりのことはあまり習ったこともなければ、本で読んだこともなかったなぁ。そういえば、昔読んだ司馬遼太郎の本に大久保利通が維新後、幕府の森林保護計画の緻密さに驚いたというようなことが書いてあったと思い出した。

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