2021/10/26 善と悪の経済学 トーマス・セドラチェク 東洋経済新聞社

2021年10月26日火曜日

トーマス・セドラチェク 経済学 資本主義 東洋経済新聞社

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善と悪の経済学

『倫理は景気循環と関係があるのか、ないのか。』という命題から『善は報われるか』という最初に建てられた命題につながる。ユダヤ思想においては善は報われるということになっている、しかも来世の考え方がないので現世で報われるという事になっている。この考え方に対してカントの『無私の行為』と比較して見返りがある善は倫理性が失われて善とはいえないのではないかという疑問を呈す。また『ヨブ記』にあるように善い行いをしているものが必ずしも報われないという事もあるのではないかという疑問も出てくる。そこはやはり宗教なので善を行うことに意味があるとする。神が与えた法に則って生活することが善であり、法を守ること自体を愛するようにしなければならないとしている。その範囲内であれば快楽を享受してもよいという落としどころになっているらしい。神の法が現代の法律に置き換わればそのまま現代でも通用しそうだ、ただし神の法では法改正は出来ない。現代も法を守ることが誇らしいというような社会であればよいと思う。

1週間の起源もユダヤ思想だった。6日働いて7日目に休むという決まりであるから、7日目は家畜でさえも休まなければならないらしい。この制度が現在は全世界に広がっているのだから驚く。さらにユダヤ思想にはヨベルの年という50年に1度の大恩赦があるらしい。ヨベルの年になると債務は棒引きされ、奴隷の身分に落ちていたものは開放される。売られた土地は元の持主の元に戻されるらしい。ちょっと現代の感覚からすると理解できないが格差ができにくくする効果があるだろう、古代でさえこれくらいしないとどんどん格差が広がってしまうのかもしれない。『人生には聖なる場所と時間があり、そこでは生産性の最大化は許されていないことを思い出させるために定められたのだろう』

セーフティーネットの考え方もユダヤ思想にはあった。落穂ひろいとかわざと収穫を残すことは貧者の為に推奨されていたらしい。『ユダヤ教では慈善は善意の表れではなく、むしろ責任とみなされていた』『共同体には貧しい人々に食べ物、住居など必需品を提供する義務があり、そのために構成員から税を徴収する権利ならびに義務がある。再弱者の利益を守るために市場、価格、競争を規制することも、この義務と一致していた』すごいねぇ。現代に生活難民がたくさんいる現実は、古代のユダヤ思想より後退しているということか。

さらに利子の話も出てくる、ユダヤ思想は本当に現代に大きな影響を与えているんだなぁ。最初の貨幣は借金の額を書いた粘土板だった、これはシュメールで行われたこと。借金には利子の問題が付いて回るというのは古代でも同じだったらしい。ユダヤ人は同じユダヤ人から利子をとることを禁止していた、これがキリスト教にも伝わり長い間利子は禁止されていた。キリスト教の権威者はユダヤ人にはこの法をあてはめずキリスト教徒はユダヤ人から借金をすることになった。金貸しのユダヤ人というイメージが出来上がりシェークスピアにまでつながる。現代の債務と利子についてはこれが無ければ社会が回らないところまで依存している。『GDPよりも数倍大きい債務が背後に存在する状況で、GDPの伸びを云々することになんの意味があるだろうか』と著者は指摘している。

キリスト教を通じてこういった思想が基部にあるのは日本と違うなぁ。

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